某雑誌エッセー大賞に二作品送ったけど、今年は最終選考に残れなかったので、こっちで公開。の二作品目。
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「食べる競馬場」
平成二十八年、私は東京者であるが、全国の中央、地方競馬場を都合三十三回訪ね、ひたすら「競馬場飯」を食べ歩いた。それをここに記す。
小倉競馬場
小倉競馬場といえば、なんといっても揚子江の肉まんを推す。小倉駅前でも食べられるが、逆に競馬場でも食べられるのが嬉しいとも言える。
土曜昼過ぎて食べようとしたら売り切れていたほどの人気。日曜は朝一番に買いに行ったら、まだできていないと言われてやきもきしながら、やっと買ったものだ。
かぶりつくと肉汁が溢れてこぼれそうになる肉まんなど、今まで食べたことがない。まだ寒い、冬の小倉で熱々の肉汁をすすりながら食べる。これはなかなかのご馳走だった。
園田競馬場
園田競馬場といえば、明石屋の、たこの天ぷら「たこ天」をあげる人が多いが、店は本当にわかりづらかった。入場したら一番奥まで行って、一番左端のビニールカーテンの中に入る。と、まで言わないと分からない。さすがに名物店だけあって、いろいろな種類の天ぷらを頼んで、がさっと買っていく人もいる。
たこ天もよかったが、個人的にはまぐろ専門店一八のマグロ串カツを推したい。程よい柔らかさとうまみをもつマグロに、かりっとした衣の食感とソース味。たまらない。
園田屋の粕汁も、寒空の下で食したせいか、身に染みる旨さだった。
阪神競馬場
カレーなら何でも好きだという昭和後期生まれの真のカレー好きなら、是非食べるべきは阪神競馬場の宝塚カレーに他ならない。
辛みを抑えた中に、しっかりと、それでいて濃すぎない、絶妙なコクを持つルー。
「ああ、カレーの美味しさって、こういう普通の食べ物だったよな」
と、改めて思い知らされる逸品である。味はまったく普通なのに、他の競馬場のカレーとは確実に違うという、謎のうまさ。
並び始めると際限なく客が並び始めるので、早めに食べるが吉。
浦和競馬場
浦和競馬場ほど、飲んで食べる系競馬ファンにとっての天国はない。
天ぷらやフライがずらりと並ぶ優駿1号から5号の店先を、ご当地ビールのCOEDO片手に眺め歩く。優駿から離れて営業をしている、埼玉独特のみそだれで提供する東松山焼き鳥や、名物の幸せの黄色いカレーを売る里美食堂もある。スタンドに入れば各階にも店が設けられ、一度来ただけでは食べきれないほどの種類と量。あれもこれも名物だといわれる、まったくスキがない布陣。それが浦和競馬場。
そんな中から無理を言って一つだけ挙げるとすれば、優駿のウインピーだろうか。
串にささったウインナーとピーマンの天ぷら。なんてことはない、ただ、苦くて甘くてうまいだけの代物だ。
笠松競馬場
笠松競馬場、というか、中京圏に来たらこれは外せない存在であろう、ドテカツ。
串カツに味噌ダレを全面的につけたものであるという事前情報はあった。まさかドテカツ頼んだら、串カツを隣の味噌おでんの鍋の中にジョボンとつけて、ハイ、と手渡されるものとは思わなかった!
しかし、笠松競馬場のドテカツ売店は三店あるのだが、食べ比べたら、そのスタイルの美津和屋さんが一番自分の口に合った。薄衣で、ちょうどよい柔らかさの肉。他の店はキャベツがついていたり、厚衣だったりと、それぞれの違いがあるので、食べ比べてほしい。
中京競馬場
中央の競馬場とあって、同じ中京圏の地方二場と比べて、多くの選択肢を持つ中京競馬場。きしめんや、各店の独自色が出る甘辛い八丁味噌のドテ煮を述べるべきではあるが、あえて言わせてもらえば、ツインハット2階の端にある、ミニショップMIYAKOのドテカツ。
ここのドテカツは、漬けタレを味噌かカレーかで選べるようになっている。
「カツカレーは米が重いけど、カレー味でカツが食べたい」
そんな小食者のニーズにも応えられる稀少な店なので紹介しておきたい。
名古屋競馬場
名古屋競馬場には時間の関係上、少ししか滞在できず、他の競馬場ほど飲み食いはしなかった。
食べたものは二つ。勝やのかき揚げきしめんと、大矢屋のみたらしだんご。
かき揚げは、大き目のくるんと丸まったエビが二匹見えており、豪華さを演出。かまぼこもぴらっと一枚乗せられ、お得感大あり。
みたらしだんごは、外側がカリッと香ばしく焼かれているのが非常に美味しい。これで80円なんだから、買わない手はない。
川崎競馬場
全国の競馬場のモツ煮を食べ歩いた私が上位にランクづけるのが、ここ川崎競馬場の志ら井のモツ煮。価格は各地方と比較すると、はっきり言って高い。モツとこんにゃくしか入ってないのに、あとはネギが乗せられてるだけなのに、1.5倍くらい違う。しかし、価格に有無を言わせず納得させる完成度の高さがある。
「これが、ザ・煮込みです」
と、言われて出されたら、まったくその通りでございますと、伏して受け取りたくなる正しいモツ煮がそこにはある。
川崎も名物が多い競馬場だが、もう一つあげるとすれば、みよしのたんめん。店で提供されるそのままの味は、コクがありながらもすっきりとしたものだが、卓上の調味料で自分好みに仕上げられるのは、丼以上の器の大きさ、懐の深さがある。
船橋競馬場
船橋競馬場でも焼きモツよりはモツ煮を勧めたい。
東西商会の煮モツ串は、白と赤があり、白は小腸のシロそのままで、赤は肺のフワである。じっくりと煮込まれて柔らかくなったそれを、かじりつき、ハフハフいいながら頬張るのは最高だ。一本百円ぽっきりの価格がうれしい。
田久保のモツ煮は普通に皿タイプなのだが、川崎と同じく、シロとこんにゃくだけという潔い一品。東西商会の煮モツ串に比べ、田久保のこれは白味噌仕立てで、どろっとした濃厚な味わい。ちびちびとやりたい派はこちらか。
福島競馬場
福島競馬場もモツ煮がうまい。モツ煮がまずい競馬場はないのだが、食べ比べてみると好みにベストマッチするかしないかの少しづつの違いで、順位がついていく。
鳥ぎんのモツ煮は、丁寧な下ごしらえを感じる、すっきりとした味噌味。野菜も大きくごろごろっとしていて、ボリュームも中々。これに内馬場で売っている福島路ビールと合わせて、やっつけると最高だ。
水沢競馬場
全国の競馬場で一番うまいモツ煮は、水沢競馬場であると言いたい。水沢食堂と丸大食堂があるが、個人的には丸大を上にしたい。 モツ煮としては珍しい醤油仕立て、日本一柔らかく煮込まれたモツを是非噛みしめてほしい。量も全国競馬場一、トレイにどかっどかっと盛られていき、「食べきれるかなぁ」と心配したところに、おばちゃんが「おにぎりもどう?」と拳骨大の握り飯も勧めてくる。大食漢はチャレンジすべし。
門別競馬場
門別競馬場ではおそらく近所の馬産関係者であろう人達が、和気あいあいとジンギスカンと競馬を楽しんでいた。四名以上の集団で来れるなら、これがベストな選択だとは思うが、孤独な旅打ちでは、そうもいかない。
何を食べても美味しい北海道だが、当日は美唄焼き鳥が出店していて、それを食した。肉・レバー・キンカン、その間に玉ねぎが挟まっており、色々な味と食感の違いが楽しめる一本だった。
他にもカレー、唐揚げ、クッキーなどを食べたが、バスの時間の関係で数レース分しか滞在できず、次回は自家製のソバや、チキンなどに挑戦したい。
帯広ばんえい競馬場
世の中にありそうでないのが美味いカレーラーメン。カレーうどんは成立するのに、カレーラーメンはなぜ成立しないと悔しがる諸兄は帯広ばんえい競馬場に行ってほしい。
生で見るばんえいの魅力は一回置いておいて、ここには昭和49年からの伝統と一つの
正解の形である「カレーラーメン」がある。
醤油ラーメンに、カレールーをかける。
「それでよかったのかぁ!」
括目する一皿がそこにある。ラーメン好きには怒られそうだが、カレー好きには受け入れられる味。
一般的には帯広といえば豚丼が興味ひかれるものか。残念ながら訪問日には競馬場店は閉まっており、バス時間が迫る中、どうしても食べてみたかったので駅中の専門店で食べた。ぎとっとしてるように見えて意外とさっぱりした味の豚肉は非常にうまかった。
それならば実際に競馬場で食べた焼き鳥をお薦めしたい。大将の熟練の手さばきで焼き上げられる焼き鳥は柔らかく仕上がっていた。
札幌競馬場
グルメ大国北海道の中心地にある札幌競馬場では渋いところをチョイスしてみたい。
つぶ貝串。
一串に4つほどの身が刺さっているのだが、噛んでも噛んでも貝のうまみが溢れてくる。貝のつまみものなので、噛み切るのは難しいともいえるが、下手すると一つの身を噛んでる間にビール一杯飲んでしまうほど、いつまでも噛んでいられる代物だった。
盛岡競馬場
盛岡競馬場ではなんといっても名物ジャンボ焼き鳥。ジャンボ焼き鳥は同じ岩手競馬の水沢でも買えるのだが、どちらが気合入れて焼いているかというと断然こちらなのだ。
何が気合が入ってるかというと、こちらは皮目が極限までにパリパリに焼かれている。水沢は普通に鶏肉を焼きましたという感じでパリパリしていない。しかし、盛岡は違う。焦げないように、パリッとするように、しっかりと皮目に、じっくりと焼きを入れている。
その皮のパリッとしたところと、柔らかい肉のコントラストがやみつきになる。
大井競馬場
南関の雄、大井競馬場も選択肢は多いが、特に挙げたいのは幸福堂のモツ煮と、東京ロティサリーのローストポテト。
全国各地のモツ煮は「これはあっちに近いな。あれは、あそこと似てるな」と思う中、この幸福堂のモツ煮は「幸福堂のモツ煮」という唯一例外の存在感を放つ代物。「モツ煮界のスーパーヘビー級チャンピオン」と個人的に呼んでるそれは、受け取ってから少し経つと、汁がコラーゲンによって固まってくるという虚弱体質お断り仕様。絶対的濃厚さを味わってほしい。
本格的なロティサリーチキンが味わえる東京ロティサリーは、単品で頼めるローストポテトが隠れた逸品だと思っている。少し甘辛いタレぽいものをかけたうえでローストされているのか、羊羹にも通じる、端っこのカリカリをがじがじと食べると、フライドポテトとはまた違ったうまさを味わえる。
新潟競馬場
米どころ、新潟競馬場はやはり米がうまい。 ご当地グルメであるタレかつ丼は、卵とじのかつ丼を食べなれている者にとっては理解しづらい代物だったが、現地にきて食べて納得。澄んだタレ味のカツは、米の味をまったく邪魔しない。米本来の味が口の中で大きく広がっていく、その時々のアクセントのための、タレかつなのだ。
カツで米を食べるのではなく、米を食べる添え物としてのカツ、あくまでも米上位、それがタレかつ丼。
東京競馬場
全国の他の競馬場が束になってもかなわない規模と内容を誇る、日本最大規模のグルメ競馬場。
この年は念願の「大穴ドーナツ」を食べることができ、非常に満足した。ふわふわの生地に、ちょうど良い甘さが、一緒に売っているコーヒーとベストマッチ。
B級、A級、スイーツ、おつまみ、なんでも揃うここの競馬場飯は書ききれないほど挙げなくてはならない。そんな状態なのに、時折開かれるグルメフェスに、ビールフェス。グルメライターが週刊誌で一年連載しても終わらないであろう府中には、競馬を知らない人にも何回と足を運んで楽しんでほしい場所だ。
京都競馬場
京都競馬場はグルメという点においては少し見劣るかもしれない。京都っぽいと思われる料理は競馬場との相性が悪い。
かろうじて京都ぽさなら、「しゅんでる」おでんか。訪れた日の京都は、ダートコースに水が浮く悪天候。寒さに震えながら食べる、おでんと追加トッピングのうどんは救われる温かさだった。同じように買う人が多かったためか、2時前には売り切れていた。
B級的にはホットドッグだろうか。カレー味の炒めたキャベツが挟んであり、「これはこれであり」と選択肢の中に入ってくる。
金沢競馬場
回転ずし発祥の地、石川。その金沢競馬場となれば、競馬場の店は回らないが、当然、寿司となってくる。
しかし、訪問日には二店あるうちひとつは休店、もうひとつは大将が出掛けていて、常連客だけが残っているという状態。泣く泣くあきらめた。
他に独特なものといえば不二家大食堂の牛すじ。入口を入ってすぐの通常メニューを注文するところではなく、右手のカウンターのところで注文するそれは、甘い。
みりんに少々の醤油といった感じのタレ?で煮込まれてる様。そのくにゅっとした食感の牛筋にからしをたっぷりつけたり、タレに溶かし込んだりして食べると、脳みそがクラッとするようなジャンクな味がする。
中山競馬場
東日本の中央競馬で一番鉄火場ぽい、中山競馬場。ここはベタにトプカピのカレーを。
「鉄火場の飯とは何か」
時間がない、迷わない、すぐ出せる、すぐ食べられる、当然味に文句はない。これだろう。
大人になって初めて中山競馬場に来たとき「悠長に食ってる暇はない」とばかりに、迷いなくカレーを選んだ競馬ベテランの友人の選択に感心してしまった。
蕎麦やラーメンは熱いものを時間かけてすすりこむ時間すらも惜しい、座って構えて食べるなんてもってのほか、かといって外でも食えるバーガーや牛丼に行くのはナンセンス、それでいてちゃんと飯になるもの、それはカレー。
それを無言で教えてくれたと勝手に思って以来、鉄火飯の一つの指針としてカレーがある。
トプカピのカレーはポークかビーフか、450円か500円か。500円玉があればどちらでも良い。受け取ってかきこんだら、さぁ、午後の競馬だ。
佐賀競馬場
名物「何でも焼く店」が有名な佐賀競馬場。とにかく、何でも焼いてくれるが、まずは試しにと丸いイカの天ぷら、関東でいえばイカ入りのさつま揚げを焼いてもらう。アツアツに熱せられたそれは、意外にもピリ辛風味で酒のアテに最適。続いて大福も網で焼いてもらい、焼き餅に。少し焦げ目がついて出てきた香ばしさが嬉しくなった。
その気になればカレーパンも焼いてくれるというんだから、一回来たら次回はアレを焼いてもらおうと帰ること請け合い。
高知競馬場
前日まで田舎寿司など、高知名物を食べ過ぎて、あまり食欲がわかなかったが、日暮れて時間も経って腹がすいたなというタイミングで、まるまんの焼きそばを買い求める。
レースも後半戦というところなので、おばちゃんも終いの分を売っている状態。
「お兄ちゃん、よかったらうどんもいるかい?ちょっと余っちゃってるからサービスするよ」といわれては引き受けない道理がない。一人前の焼きそばに、半人前の焼うどんが重ねて盛られ、大焼麺の完成。これはある意味B級皿鉢料理か。あとは何も食べなくていいなと、ありがたくいただいた。