朝目覚めて起き上がるが、まだ頭の中がボーッとしていて、何も考えられない。しばらく、何も考えずに、ただ座っていた。
「っくしょんっ!!」
自分のくしゃみでやっと覚醒。
布団も敷かず、何も着ていない自分に気づく。
隣では同じく丸裸のジェジュンが、脱ぎ散らかした服の中に埋もれて寝ている。
「風邪引いた?」
「あ、わりぃ、起こしたか?」
「くしゃみが豪快だからね。
ううん。起きてたよ」
「なんだ、起きてたのか」
「寝てるユノをずっと見てた」
「え?」
うつ伏せで横たわりながら、腕で顔を隠して目だけ出して俺を見つめるジェジュン。微笑んでいるのが分かる優しい目だった。
「体、大丈夫か?」
「男だからね。まさか、5回もするなんて思わなかったけど」
「いや…止まらなかった」
「いいよ、俺もだもん」
ジェジュンはムクリと起き上がり、ニコッと微笑むと、まだボケっとしてる俺にチュッと軽く口付けた。
そして、俺に背中を向けて、自分の衣服を探り始める。その背中は、滑らかで、腰元はキュッとして細く、俺がつけた印があちこちについている。
「あっ…ユノ…だめ…」
お返しにとチュッと、背中に口付けると、甘い声で制止してくる。その声は決して制止してるようには思えないほど、甘く切ない。
俺はぎゅっと、その背中を抱きしめると、後ろを振り返ったジェジュンに口付けた。
優しく甘い口付け。
永遠に続くように思える、柔らかい時間。
でも、時は残酷で。
そんなに悠長にもしていられない。
俺達は衣服を着ると、軽く飯を食べて、宿を後にした。
宿を出ると、さすがジェジュン。
キリッと表情が変わる。
「ユノ、俺、本当に待ってていいの?」
「あぁ、待っててくれ。
必ずすぐ戻ってくる。お前は任務を果たせなかったことから、自分の国の人間にも狙われるかもしれない。だから、すぐに戻って来るから」
「そんなことは平気。
承知の上だから。ユノも気をつけてね」
「俺は玉を渡すだけだから、大丈夫だ。
で、お前の身を隠す所なんだが」
「?」
「この前世話になった、子供と母親の所に頼もうと思う」
「弟子の所ね!それだと、すごい嬉しいけど、向こうは大丈夫かな?」
「ちゃんと金は渡すよ。
それに俺の弟子だ。信頼できるだろ?
あの2人には男手も必要だと思うから、何かあったら手伝ってやってくれ」
「あい」
「あと、浮気すんなよ」
「さーね。ユノが早く戻ってこなかったら、分かんないなー」
「おい、そこは、しないよ!だろ!」
「えー?だって、いつユノよりカッコいい人が俺を攫うか分かんないじゃーん」
「阿保!!俺だけにしろ!今誓え!」
「ぷっ!本当、冗談通じないんだからぁ!
俺はもうユノ一筋だよ!早く行こう!」
明るく笑いながら、ジェジュンは俺の腕を引っ張る。寂しさを隠すためにわざと、明るく振舞っていることは、いくら鈍感な俺でも気づく。
そんな姿に胸が締め付けられる。
弟子の家に着くと、事情を説明した。
弟子も母親もやはり、すぐに快諾してくれ、俺達はホッと胸を撫で下ろした。
茶をご馳走になり、そろそろ出発しようと立ち上がる。玄関まで、ジェジュンと親子の3人で俺を見送りに来てくれた。
「師匠、姉ちゃんのことは、俺が守るからね!」
「あぁ、頼んだぞ」
「ばか…」
満面の笑みで弟子は送り出してくれた。
ばかとか言いつつ、嬉しそうに、でもどこか寂しそうに微笑むジェジュンは本当に綺麗だった。ジッと黙って見つめあっていると、親子はすぐに空気を察して、2人きりにしてくれた。
「別にいいのにね」
「気を遣ってくれてるんだ。
それじゃ…行って来るから…」
「…うん。気をつけて」
「…」
「…」
「口付けとかしてくれないのか?」
「ばーか。するかよ!恥ずかしい!早く行け」
「なんか、夫婦になっても、こんかやりとりしそうだな(笑)」
「夫婦って…///馬鹿なこと言ってないで、行きなよ」
「あぁ…じゃあな、元気でいろよ。すぐ戻るから」
「あい」
こんな時は「あい」という返事でも愛おしくてたまらなくなる。俺はクルッとジェジュンを背にして歩き出した。
ほんの数日離れるだけだ。
必ず戻って来る。なんでもないはずなのに、胸騒ぎがする。
すると、突然、後ろから思い切り抱きつかれる。俺の胸元に回された白く細い手首を見ると、誰だかすぐ分かる。振り返りたかったけど、小刻みに震えが背中に伝わり、泣いているのだと察して、そのままでいることにした。優しく手を重ねる。
「はやく…帰って来て…寂しい…」
「分かってるよ。すぐ戻る。
寂しくて、辛くてたまらなくなったら、箱を見ろ。俺がそばにいるって分かるから」
「…うん。でも…ユノがいい。そばにいるのは、箱とかじゃなくて、ユノにいてほしい」
「俺もだ。ジェジュンのそばにいたいし、いてほしいよ」
ジェジュンは少し背伸びをして、後ろから俺の耳に口付けをすると、ゆっくり体を離した。
「これで大丈夫。さぁ、ユノ行って?」
俺が顔だけ振り返ろうとすると、そうさせれるかと言わんばかりに無理矢理手で前を向かされる。よっぽど泣いてるところを見られたくないようだ。俺は、そんなジェジュンも愛らしくて笑ってしまった。
そして、背中を押され、家を後にした。
ピリッと顔にちょっとした衝撃が走ったような気がした。立ち止まって周りを見渡すが、特に何もなく、俺は気のせいかと思い、再び歩き始めた。
俺1人だと簡単に城内に入ることができた。
用事は早く済ませるに限る。
俺はすぐさま王宮に向かおうとした。
城内に入ってから、3名に後をつけられているのを感じた。そんなことをしなくても、ちゃんと王宮に向かうというのに。
ため息をつこうとした瞬間、目の前に女が現れた。許嫁だ。
「ユノ様!おかえりなさいませ!
ジェジュン様とやっとお別れになったのにですね」
「あなたと話している暇はない。
どいてください」
「つれないですね…
仮にもまだ許嫁ですよ?」
「破棄の申し入れも含めて、王宮に向かうのです」
「そんなこと認められると思ってるの?」
「あなたは本当に許嫁か?
良家のお嬢様というわりには、忍びのようだ。
おばあさんに化けて出たりして」
「そういう仕事をする一族に生まれたものですから。あなたが婿入りしようとしている一族は、そういう意味での良家なのよ?」
「婿入りなんてしない。そこをどけ。殺すぞ」
「まぁ、怖い。そんなに先を急がなくてもいいでしょ?いいわ、どうぞ、王宮へ向かって下さい。では、また」
許嫁は、そう言い残して俺の前から去って行った。