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DKW Three

（タイトルリード）
DKWの2ストローク3気筒に対するこれまでの賞賛の中で最も高いのは、ライバルであるMoto Guzziチームの敏腕家として名高いFergus Andersonによってもたらされたものだった。Moto Guzziのライダー達がグランプリの350ccクラスでチャンピオンシップを独占することとなった1953年から1957年の5年の間、Andersonはそのタイトルがやがてドイツに移ってしまうだろうとも語っていた。1955年と1956年のBill Lomansの栄光だけは別にして…と付け加えることも忘れてはいなかった。

（本文）
　1955年、Deek(DKW)に乗ってドイツ・チャンピオンシップを勝ち続けたAugust Hoblは、グランプリにおいても余裕ある走りでLomansを苦しめ続けていた。イタリアチームが優勢を誇っていられたのは、これまでの経験と実績による総合的な競争力を持っていたにすぎず、自力さえつけばHoblにも勝ち目はあるといえるだけの気配をAndersonは既に感じ取っていたのだ。
西ドイツがFIMにスーパーチャージャーの禁止を提訴し、実行された1951年以前にも、DKW だけはどのクラスのマシンにも過給器を取り付けてはいなかった。そして、DKW3気筒がデビューしたのは1953年のこと。それはHelmut Gorgの骨身を惜しまぬ仕事の功績とも言えるモノだった。開発は1954年も続けられ、1956年にDKWワークスがレースからの撤退を決定するまで、彼の手の中には、まだまだ多くの秘策が練られていたのだ。
　1921年、Dane(I.S.Rasmussen)によって見出されたDKWの水冷2気筒は、戦争が勃発する1939年までの間、スーパーチャージャーを装着したシングル達に悠然と立ち向かって、ライトウエイト・クラスのトップを争えるだけの競争力を付けていた。戦後になって東ドイツはソビエトの管理の基にSaxonyにあるZschopauに独創的な工場を作っている。その工場はMZ(Motorradwerk Zschopau)と名称され新たな分野への挑戦を開始していた。
　DKWは西ドイツのIngolstadtで新たなスタートを切った。DKWの戦後最初のワークスレーサーは、過給器を持たない前傾シリンダーの125ccシングルだった。戦前のピストンバルブのスプリット・シングルとは異なり、クランクケース後方に円筒形のロータリーバルブを設けていた。これは、いずれ行われるであろう250ccパラレル・ツインの制作を見越したものであることをつぶさに予感させていた。ただし、このレイアウトには欠点もあった。2つのインレット・トラックの長さが不揃いになることだった。この解決策は、ローターを90度曲げ、クランク・チャンバー間に前後方向に横置きにすることだった。こうして作られた250ccバージョンは、戦前のスターライダーの一人であるSiegfried Wunscheのライディングによって1953年のTTライトウエイト・クラスで3位に入賞。DKWのパフォーマンスの片鱗を印象づけることに成功している。
　しかし、DKWは既に円筒形のロータリーバルブに見切りを付けることも判断に入れていた。次に想定していたのはクランクケースリードバルブであり、その潜在能力には大いなる期待も寄せられていた。より自然な共鳴振動数によって、より早いポート解放が行われ、強い圧縮パルスが得られる利点があるからだ。当時のMZとは異なり、DKWはディスクバルブの配列を否定して、単にロータリーバルブを捨て去ることを決定。トータル・Lャパシティーを350ccと決定づけてクランクケース後方には新たなシリンダーの追加を図っていた。各シリンダーのボア＆ストロークは53×52.8mmに縮小。中央のシリンダーは水平に、エンド側は15度の前傾を強いた奇抜なレイアウトであり、決して原理的と言えるモノではなかった。
実際、クランクの配置は変形であり、イグニッションを単純化するために設計者は等間隔の爆発行程を行わせるよう望んだ。ようするに、3つのシリンダーを一列に並べて、120 度の角度で各クランクピンを設けると言ったものだ。しかし、DEEKの中央シリンダーは他のシリンダーに対し75度であり、外側のピンのみが120度を設定されていた為に、中央のピンは不一致であり、45度に設定し直す必要があった。当然、各シリンダーにはそれぞれのキャブレターがあり、ポートタイミングはシンメトリー。クランクケースから追い出されるように設置されたマグネットは、エンジンスピードの半分で駆動するために6気筒のパワーユニットを想像させる出力特性となった。
　当初、DKW3気筒は発生出力を31bhpとし、信頼性には欠ける値を示していた。1953年のジュニアクラスのTTでは、Wunscheのライデングでリタイア。その後、2年間の開発によって45bhp/9,700rpmまでに高めることもでき、トップスピードは135?140mphを記録するまでになっていた。6ボルトのバッテリー＆コイル・イグニッションは、パワーロスを最小限に軽減し、回転重力の削減とより有効な着火能力をもたらしていた。決定的な改良となったのは、ベアリングのレイアウトやシャフトの剛性アップ、ポートタイミングの変更。ピストンとシリンダーヘッドの設計の変更、潤滑系統にまでも手直しが図られている。
　本来はマグネットがあった軽合金のケース内には、舌状のプラスチック製の3つの連結ブレーカーが配置。シャフトは当初カバー内のアウトリガー・ブッシュの中でハウジング内のボールベアリングによって支えられているにもかかわらず、タイミングはきわどいほどの狂いを露呈することとなってしまった。ニードル・ローラー・ベアリングを採用したり、ブッシュを廃棄したり、様々な試みが成されていく。ボトムエンドの信頼性は、メインの4つのローラー・ベアリングの拡張と強化された6片のプレス加工のクランクシャフト、ガスシールをラバーからメタルに変更。フローティング・タイプのスモールエンド・ブッシュをケージド・ニードル・ローラに変更するなど多岐に渡っている。
混合燃料は范ｦを6パーセントから4パーセントへと改善され、28mm径のデロルト製のキャブレターには充填効率を高めるために温風のデフレクター板装着し、冷却効果を求める工夫も成されている。フライホイールディスクのランニングクリアランスの調整や高い一次圧縮を得るためのコネクティングロッドのギャップ調整、シリンダーの掃気と充填効率の改善のためにエキゾーストボックスの装着など徹底した出力改善も図られている。
　ノーマルエンジンのパワーバンドが7,500?11,000rpmまで、しかし、様々に手直しされたパワーユニットは実に15,000rpmにまで許容範囲が拡大されている。フェアリングなしでもトップスピードは120mphに達し、Munich Technical Collegeにおける風洞実験で開発されたフェアリングを用いれば、更に20mphアップの140mphの最高速度が記録されている。
　更に興味深いメカニズムとしてあるのが、ペダルからの液圧式で作動する前後4つの9と1/2インチ径の2リーディング・シュー・ブレーキ。このDKW3気筒が高い競争力を持ちながら、レース界から撤退することを最も惜しんでいたのは、誰よりもGorgだった。エンジンの総合的な効果を図った暁には、更に15パーセントもの出力向上が可能であることを悟っていたからだ。