ワーグナーの楽劇(←6時間は当たり前)に馴染んでいる身としては、3時間15分くらいは何とも感じないけれど、客席に点在した子供達(←みんなお行儀良くてビックリ)には、なかなか辛抱のいる長さだったかもしれない。
オーロラ姫の誕生を祝う席に招待されなかったことを怨み、その姫に「成人したら死ぬ」という呪いをかける邪悪な妖精・カラボスと、「眠るだけ」と呪いを弱めるリラの精、そして他の妖精たち…
カラボスには、新国立劇場バレエ団きっての美しいダンサーでありプリンシパルの、本島美和さん。
昨日の初日も存在感抜群だった。
対するリラの精は、演目を重ねる毎に大きく成長していく木村優里さん。
いつまでも新人だと思っていたら大間違いで、本島美和さんと互角の勝負をする貫禄だった。
二人のやりとりを見ていると、どうも旧知の仲のようで、もしかするとリラの精は、カラボスの心をも救おうとしている?…という空気。
カラボスもそれを分かってはいるが、どうしても受け入れられない…という、長く関わりのある女同士の愛憎半ばする意地の張り合いだ。
ずっとこの2人の濃いドラマを見ていたくなったけれど、場面は進む。
次々と登場する他の妖精たちもまた、ダンサーが素晴らしい。
3年前の初演時にはリラの精も踊った寺田亜沙子さんは、今回は前半が「誠実の精」で、後半は宝石の「
サファイヤ」役なのだが、いつも思うけれど本当に綺麗な人だし、その表情が好き。
「優美の精」の丸尾孝子さんは、キャラクターの入った演技も上手いけれど踊りも上手いベテランの味だし、「寛容の精」の飯野萌子さんは、いつも動きの余白が優雅で、見てるとスーッと心が癒される。
「歓びの精」の五月女 遥さんは、第3幕の「赤ずきん」役でもそうだったけれど、誰よりも踊りにキレがあって魅力的だし、「勇敢の精」の柴山紗帆さんからは、誠実さが真っ直ぐに伝わってきて引き込まれたし、「気品の精」の寺井七海さんからは、踊りからもお顔からも凛とした高貴さを感じた。
そうなのだ。
私は新国立劇場バレエ団のダンサーさんが、一人一人好きだから、その踊りが次々と観られるだけで幸せで、時間なんかアッという間に経ってしまう。
妖精たちとペアになって踊る騎士の7人も、なんとも豪華な顔ぶれで、誰が主演の王子でも不思議じゃないし、実際そのうちの井澤 駿さんなどは、12日の公演ではデジレ王子役!
私の大好きな渡邊峻郁さんや中家正博さんもいて、「もぉ?どこを見たらいいか分かんないよー」という困った状態だ…
リラの精のお伴・6人の妖精たちも、これが綺麗どころが揃って目の保養!
個々の踊りは上手いし、常にフォーメーションが完璧だし、姿は美しい、顔は可愛い、とにかくキラキラの6人!
カラボスの手下たちも、お面を付けているから誰が誰やら?なのだが、その動きの素敵なこと??
爬虫類的というか昆虫的というか、地を這って急に飛び上がるような動きがカッコいい!
最初の休憩までに、かなりの満足度が高まり、新国立劇場バレエ団のファンとしては、相当に幸福な時間を過ごした。
でも!
なんとまだ、主役は登場していないのだ!!
休憩後、やっと第1幕で、お待ちかね!! オーロラ姫の米沢 唯さんが登場。
すると、やはり姫は姫、主役は主役で、ステージに現れるまでのお膳立てから違うわけで、いきなり他を圧する素晴らしい存在感だ。
姫と共に踊る4人の王子に、これまた大好きな渡邊峻郁さん
12日の王子・井澤 駿さん、「ドン・キホーテ」のバジル役が超カッコよかった中家正博さん、このところ大躍進の小柴富久修さん…という豪華さ!
見ていると、4人がそれぞれ地味に他の王子をマウンティングしていて、「俺様の方が上」という制し合いを繰り広げており、そっちのやり取りも気になるところなんだけれど、米沢 唯さんの踊りからも目が離せず…
録画して観られるものなら「巻き戻し」したい場面がいくつも点在していた。
第1幕のクライマックスは、ローズアダージョ。
素敵な4人の求婚者と踊るオーロラ姫の、なんとまあ恵まれていることか!
…とは言え、これを踊るのは並大抵のことではないのも知っているので、こっちも手に汗握って注視する。
長くバランスを維持して回転と静止を繰り返す至難の場面では、米沢さんほどのプリマ・バレリーナをもってしても余裕は無いと思うのだが、それでも終始微笑みを絶やさず、「この世界は私を中心に回っているのよ」と言わんばかりに天真爛漫なお姫様ぶり。
ほーっと賞賛の溜息がこぼれる。
客席は割れんばかりの拍手とブラヴォーで沸き返った。
そこに老婆に化けたカラボスが現れ、「毒針」を仕込んだ花束を渡されて倒れる姫…
颯爽と登場したリラの精によって、姫だけではなく、城の人は全員、100年の眠りにつかされるのだが…
ま、どうでもいいことなんですが、とばっちりで100年も眠らされる御家来衆の皆さん、ほんとにお気の毒です(涙)
彼らの家族からしたら、100年も眠らされて帰ってこないんだから、死んだも同然だし、本人たちだって100年後に目覚めたところで浦島太郎状態
どこまでもどこまでも「オーロラ姫を中心」に回ってる御伽噺の世界なのであります(笑)
かくして、休憩は挟まずに第2幕へ。
ここでやっと御登場のデジレ王子!!
演じるは、今や世界的なスター、ワディム・ムンタギロフ様だ!!!
彼が出て来るやいなや、その美しさ、高貴さ、色気といい華といい、もう言葉もなく全てが素晴らしくて、ここまでの感動の一切が、一度リセットされてしまった。
しかし、新国バレエ団の日本人だって負けてません。
伯爵夫人役の堀口 純さんは、前から定評のあるところだけれど、実に綺麗な容姿と雰囲気をお持ちだ。
高貴で美しい御令嬢役と言えば、世界標準でも本島さんか堀口さんで間違いないと私は思う。
その美しい伯爵夫人さえ追い払い、1人になった王子のもとに、リラの精がやって来る。
リラの精も、100年かけて「うちのオーロラ姫に誰か打って付けの結婚相手はいないかしら?」と、探していたんだろう
ほとんど世話焼きのお見合いオバさんみたいだが、実際なかなかの手練れっぷりで、王子には「素敵な姫の幻影」を見せ、気を引くことに大成功!
イバラに囲まれた城へと、それは巧みに誘導する。
この「幻影の場面」で、マボロシとして登場するオーロラ姫と王子、その間に入るリラの精、さらに沢山の妖精たちの踊りが、大変美しい……んだけれど、ここで睡魔に襲われている人を、私の周囲だけで何人も見た
勿体無いことだけれど、長い上演時間も中盤に差し掛かり、ステージ上は暗いし、音楽は静かに歌っているし、ふわ?っと意識が飛ぶのも仕方ないかな…?
ただ、やはり頑張って目を開けていないと、第2幕の最後にオーロラ姫が王子のキスで目覚め、そこで両者が恋に落ちて踊るシーンを見逃してしまう。
ここは絶対に寝てはいけないのだっ!
2回目の休憩も終わり、いよいよ第3幕のディヴェルティスマン。
お馴染みの軽快でテンションの上がる音楽と共に、本編とは何の関係もなかったキャラクター達が次々に登場する♪
結婚式の余興とでも考えればいいのだが、この構成を「ワケがわからん。物語の必然性がない。何のための踊り?」と嫌うウチの息子は、バレエを観にはやって来ない。(←バカだね?)
でもバレエのファンとしては、ここが最も盛り上がるところなのだ!
ましてや昨日は、フロリナ王女に小野絢子さん、青い鳥に福岡雄大さん…と最高位のスターまでが動員とあって、客席からは2人が出ただけで大拍手。
これはもうアレだ、まるで紅白歌合戦か、野球のオールスター戦だ!
全日同じチケット代金なのに、初日組のこの大盤振る舞いはどうなのだ?…妬ましくて苦情を言ってくるお客とかいないんだろうか?(笑)
まず「宝石たち」の踊りが披露される。
ここにも大好きな渡邊峻郁さんが登場!
男性1人に3人の女性で、それも細田千晶さん、寺田亜沙子さん、広瀬 碧さんという贅沢さで、見せ場もたっぷりだ。
昨年から新国バレエ団に入団した渡邊さんは、フランスのトゥールーズのバレエ団でも主役を踊りスターだった人だけれど、ここ新国でもすっかり地位を築いた感じがする。
ものすごく熱のこもった拍手を受け、何の関係もない私まで嬉しくなる
もっともっと主役で踊って欲しい人だ!
有名な猫の踊りには、お面をつけた若生 愛さんと中家正博さん。
面白いもので、顔は隠していても、その踊りに個性が出ていて、2人ともとーってもセクシーだしキュートだ。
フロリナ王女と青い鳥の踊りは、圧巻。
特に凄さを見せつけたのは小野絢子さんで、比較的「易しい」とされるフロリナ王女のヴァリエーションを、こう表現するとここまで芸術的な踊りとなり、見る人の心を掴むのだ…という驚きがものすごかった。
やはり小野絢子、恐るべし!!
しかし、次の「赤ずきん」五月女遥さんも素晴らしかった。
彼女の踊りからは、いつも「詩」や「風景」までが伝わってくるし、小柄な方なのに、少しも小さく見えないから凄い。
「狼」の小口邦明さんも、こういうのも上手いんだねぇ。
「親指トム」の八幡顕光さんは、昨日のゲネプロでは少し調子を崩されていたけれど、流石はベテランのプリンシパル、本番でキメる時はキメて興奮した。
あぁ??なんてご馳走だらけの公演だろう。
満漢全席みたいだ!!(←食べたことないですけども)
そして、最後に登場の王子と王女!
ここに主役あり?という強靭なオーラの輝きで、改めてこの方々が「世界の中心」であることを思い出す!
2人の踊りは、もう何も言うことはありません。
オペラグラスも膝に置き、ただポカンと見惚れるのみ。
ムンタギロフ様も、米沢唯さんも、普通の人類じゃないんだな…
バレエの星からやってきた異世界の人だ。
非現実の人だ。
少なくともステージ上では、完全にそう見える。
最後の最後、リラの精が現れ、木村優里さんの姿も拝んだところで幕。
…やはり本番のステージは違う。
前日のゲネプロとは、舞台の隅々まで張り詰めている空気が違ったし、ダンサーさんから発散される輝きも数倍になった。
プロだわねー
それに、何より違ったのはオーケストラだ!
新国立劇場ではお馴染みの東京フィルハーモニーだけれど、長時間のリハーサルを繰り返し、細かい音の流れを舞台の踊りに適応させてこられた胆力には頭が下がるし、やはりプロだから、本番となると気の入り方も大違い。
東フィルさんあってのチャイコフスキーだったし、指揮のバクランさんも、いつも熱くて大好きだ!
みなさま、本当にお疲れ様です。
そして、今日もまた2日目のステージが。
楽しみです\(´◇`)/