バレエの饗宴2017
毎年、楽しみにしている放映です。
プログラム順に感想を書きます。
“まずいと感じた点”について、明確に書きました。
(悪気はありません。あくまで素人目に気になったことですので、プロの視点とは異なります。)
〇井上バレエ団による「ナポリ」第3幕から
昨年のこの公演で、マニュエル・ルグリ氏(現ウィーン国立バレエ団芸術監督)がオーディションを行って選抜した子供たちが踊ったことは、バレエファンなら記憶に新しいと思います。
とても可愛らしかったし、若々しくて(実際若い:笑)、素敵でした。
それに、当ててきた井上バレエ団の狙いは何? 本当の若さが奏でる清らかさや瑞々しさに、印象を含めた出来が勝ることが出来ると思ったのでしょうか?
前半のパ・ド・シス(男女六人の踊り)、もっさりしていました。軽快さが出せていません。
女性のパ・ド・カトル(四人の踊り)も、モソ〜と感じました。
青いスカーフの男性ダンサーさんは技術が劣りました。ピルエットの途中で踵が付くことはたまにはあると思いますが、プロですからほぼそうなってはいけません。調子悪かったのならキャストを変えるべきでしょう。観客に辛抱を強いるのはプロの仕事ではないと感じます。
この演目の盛り上げ役は浅田良和さんでした。男性ダンサーのバレエシューズがちょうどVの字に見えるようなものでしたが、あれは、つま先がとても目立ちます。ブルノンヴィルの足捌きを見せつけるためのシューズなわけです。どの角度、どのシーンを切り取ってもVが鮮やかな浅田さんはしかしフリーダンサー。
荒井成也さんも爽やかでテクニカルに満足できました。体力が作品に伴っている印象で安心して鑑賞できました。おせっかいなことを書きますと、プロフィール写真が40後半のおじさんに見えますので、俳優さんなどが使う専門のスタジオで3万円ぐらい払って取り直すと、普段からもっと人気が出来ると思います。
最後のコーダ部分、10人ほど並んでとてもきれいなシーンがありますが、浅田さんの跳躍が見事すぎて、他から抜きんでていたのが逆に気になりました。リハーサルの時にその違和感には気がついていたと思います。周りに合わせてセーブしてもらうようにした方が、作品のまとまりが良くなったと思います。群舞場面で、こうも1人だけ抜けている違和感は不要だと感じます。また、レヴゥランスで目が2回泳いだのは荒井さん。何かどーしても気になってみなければいけないものがあったのかしら?
〇貞松・浜田バレエ団による「死の島 - Die Toteninsel」
ラフマニノフのメロディは雰囲気があって良い。そして、作品の色合いもすごく理解できる。我々にとって重要なテーマ「死」を取り上げ、葛藤を踊りました。ダンサー5人とも熱演で、素晴らしい出来だったと思います。しかし、問題は、全体に黒すぎること。劇場で見ると見えるのです。しかし、テレビでは見えません(私は、自身の鑑賞経験から、生で見た感じを想像しながら見ました)。つまり、テレビ放送しか見ていない人には、作品の艶や機微が黒で覆われ、ダンサーの動きさえ黒で覆われ、見えないのです。バレエは見る芸術ですから、見えないとなると大問題です。全国放送をすることはわかっているはず。そして、それがバレエの普及につながるように・・・というのが企画側の願いでもあり、バレエファンの願いでもあります。誰でも見る機会があるテレビ放送があること前提の公演なのですから、白くした方がいいのです。黒すぎるのはいかんのです。古いテレビで見る人だっていること前提で制作する配慮が入りました。
〇新国立劇場バレエ団による「テーマとバリエーション」
これは、とても良かった。綺麗で楽しく鑑賞出来ました。
圧巻は、唯さん。インタビューではフェミニンに踊るように指導されていると答えられていましたが、私は、女王のような貫禄、安定感、しっとりとした美しさを感じました。華奢な方なのに舞台では大きく見えます。踊り方はまさに“お見本”で、曇りがありません。素晴らしいです。
唯さんは、新国立のトッププリマです。ですから、バランシン作品ではあるのですが、唯さんオリジナルの味を加えさせてあげて欲しいです。私は、自分の中に唯さんらしさを感じたいという欲が芽生えるのを感じました。
福岡雄大さん。重い〜。綺麗で安定感抜群で、音取りもすべてしっかりハマっていて素晴らしいのですが、なぜ彼のジャンプはこうも重い?上手なのに重く感じます。垂直にジャンプした最頂点で何かが頭を押さえているのでしょうか?スーパーバレエダンサーのジャンプは跳躍力が天に抜けてみえるのですが、福岡さんはズン。惜しい。福岡さんの全体の出来映えはpas mal(悪くはない)。
ヴァイオレットブルーの衣装の女性ダンサー達、見事に踊り、素晴らしく美しかった。
PDD後半にかけて唯さんのバレエの質感はますます良くなり、“太陽の光を浴びながら大輪のダリアが開花するような、幸せな時間の流れを感じさせてくれました”。これぞ、踊りが芸術の域に達したときの多幸感。この盛り上がりにおいては、福岡さんの安定のサポートへの評価が高まり、お尻が多少大きかろうが全く不満を感じなくなります。バレエの魔法。
終盤のワルツステップも素敵で、きっちり盛り上げてくれるのは新国立の実力。
中家さんも存在感有り、コールドの中で美しく見えました。
最後の部分で、揃ってダンサーがザンレールする際に、着地で床から跳ね飛ばされたダンサーさん。肝心なシーンなので、きっちりお願いしたかった。
〇牧阿佐美バレヱ団による「眠りの森の美女」から第3幕
トリです!
トリということは、本公演すべての締めを引き受けている訳ですから、豪華なバレエの饗宴を華やかに締めていただきたい!
眠りの第三幕と言ったらストーリーもあったものじゃなく、とにかく宮廷バレエの典型で、絢爛豪華で踊りが楽しくなければいけませんよね?
私は、ですから、この順番で、この演目で、出来が普通だと、それは不可なのだと思います。
リハーサルシーンで、牧先生のディテイルに拘ったご指導の場面が抜かれました。牧先生の言葉、表情、仕事への姿勢からはバレエ愛が迸り、素敵です。
しかし、それとこれとは別問題。かなり不足の多い結果でした。
まず、豪華なオケ演奏に引っ張られ登場するコールド。衣装は重厚感あり、カツラもかぶっていていいのですが、肝心のワルツですすむ様子がまるで見えません。音を消したらマーチのようにさえ見えますよ。全員の1拍目が浅い。全員が普通に歩いているように見えるのはかなり残念です。これはコーダでも同じことです。
宝石の踊り(パ・ド・カトル)。
ゴールドのダンサーさんは全身、特に肩から腕にかけて石膏で固まっているかのようにカチカチ。伸びがない。腕に柔かさがない。なんでしょう?
シルバー
可愛い。とても上手ですし、華があります。皆さん、このダンサーが、新星:阿部裕恵さんです。チェックしましょう。
変だと感じるポーズの連続の振付。これは私はあまり見慣れないのですが、何て奇妙なのでしょう?踊りこなせるダンサーが踊ったら随分違うと思いますが、この方も腕は棒なのか?肘がないような腕の使い方ですからまったくエレガンスが見えません。開脚のジャンプもショボい。
ダイヤモンド
とてもきれいなバレリーナです。ニュアンスやつなぎが丁寧で綺麗で素晴らしい。
しかし、このパ・ド・カトルにおける男女格差、どうにかならないものだったのでしょうか?
男性二人、単純にジュテだけでもきれいにできればよかったのですが。
猫。二匹とも色気不足で、つまらない。音楽にもっとのって欲しい。
フロリン王女とブルーバード
清瀧さんは超上手です。ブラボー。アントルシャでつま先は伸びているのに足首が曲がっているというところが技術面で少し気になりましたが、総じて最高の出来に見えました。
フロリン王女、ソロの最後でバランスを少し欠きつつも、でもとても良かった。衣装も素敵ですが、バレエ自体に品がある。このダンサーさんのオーロラ観たいです。
赤ずきんと狼。
狼が背が高くて迫力あるかと思いきや、アンディオール不足なので、足が長い分かえってラインが綺麗に出せていないのが気になりました。演技では、赤ずきんは、最後狼に担がれてしまうのは不本意だという演技が正解で、待ちかまえては不正解だと思います。
オーロラ姫&フロリモンド王子。
オーロラ姫は、登場シーンからお疲れの表情。これにはがっかりしました。フロリモンドの七三分けは昭和レトロな雰囲気。一定の型を目指して踊っているのはわかるのですが、印象は地味。オーロラの表情が硬すぎて、各振りの最後の部分に笑顔を添えていても、全体にマジ顔続きなので、どんどんと盛り下がる。しまいには、オーロラなのかオディールなのかというほど、冷やかさまで感じさせる表情は、この美人バレリーナにして、キャリアもある方なのになぜこうなってしまうのか?理解不能。
フロリモンドは、まんべんなく技術が中の上ほどなので、王子としてはミスキャストでは?アラスゴントゥールの軸足のルルベの低さは解決しなければ本番に望めないはず。あのように低いルルベで回っても美しくは見えません。それから、シェネが太い。シェネの2本の脚の間からかくも明確に向こうがのぞけるという・・・・。
なんだかなーとだんだんと、観賞テンションが下がってくると、装置のハリボテ感も気になってきたりする訳です。
※このフロリモンドを踊ったオトゴンニャムさんは、古典向きでないのであって、ドミニク・ウォルシュの『牧神の午後』を踊った時にはとても良かったです(2015)。
来年以降は、
過去の例を挙げると
吉田都・フィリップ・バランキエヴィッチ
橋本・木本
のような、きっちり見せてくれれパ・ドゥ・ドゥを1公演で2つぐらい入れていただけると嬉しです。
実力派によるPDDが、バレエ団演目の出来栄え不足を補って、公演全体のクオリティを保ってくださるといいなと感じます。
あと、コンテは子供も楽しめる明るい作風のものが良いと感じます。
来年も、期待しています。