ファション はやい、やすい、うまい

ファション はやい、やすい、うまい

ファション 食の、あたらしい風。

〜ファッションカラー基本講座を受講された方へ〜

 

お待たせしました
『ファッションカラー実践講座』のご案内です。

 

基本講座を修了された方たちに、
「ぜひ続編を!」
というお声をいただいていました。

 

基本講座で学んだ色彩の基礎知識や配色の考え方をベースに、さらに

“色を読み解く力”&“色を楽しむ力”

を養えるように考えたオリジナル講座です。

 

積み上げた色の知識を、今度は深めていきましょう。
ご参加をお待ちしています。

 

お申込み条件
「ファッションカラー基本講座」を受講済みの方、現在受講中の方
または、色と配色の基礎的な知識(色彩検定3級程度)を有している方


【講座内容】

『ファッションカラー実践講座』
〜ファッションコーディネートを色彩の視点でまとめるコツ〜
  

ファッション分野でよく使われる色

効果的な配色構成 
   ・バランスのとり方
   ・面積の変え方
   ・コントラストのつけ方
   ・コントラスト感の調整
   ・無彩色と有彩色の配色
  

“色を見極める” 配色で活かす3つの視点
   ・色相を見極める
   ・明度を見極める
   ・ベースを見極める
  

「ファッションカラー実践コース」の概要、開催日程、お申込みは、

 

 

その他のご案内

開催中のカラーコーディネート講座
@配色センスアップ体験講座
Aファッションカラー基本講座
Bファッションカラー実践講座

*@ABの順か、ABの順で受講できます。

★色彩認定講師が、わかりやすくお伝えします。

 

色に関心がある、色を勉強したいと思う方、

まずは、体験講座へいらしてくださいね。

ご案内@

■配色センスアップ体験講座@東京 
色のしくみと配色を理解してセンスアップ!                 
『色の活かし方』を体験してみませんか?

ファションの配色セオリー『3色までに抑えるとまとまりよく決まる』を基に、

・色のしくみ
・色の選び方やまとめ方のコツ
・バランスのよい配色の考え方
などをお伝えします。ぜひ、気軽に学びにお越しください。

?『配色センスアップ体験講座』の概要、開催日程は、

 

ご案内A

■ファッションカラー基本講座@東京

ロジカルな視点で、自分らしい色選びを!

★11月スタート日程更新しました。

色彩学と配色の基礎を体系的に学び、カラーコーディネートの幅を広げていく講座です。

多くの色の中から、表現したい色を選べるようになるための配色セオリーを、わかりやすくお伝えします。

?『ファッションカラー基本講座』の概要、開催日程は、

 

お知らせB

■ファッションカラー実践講座@東京

“色を読み解く力”をレベルアップ!

基本講座で学んだ色彩の基礎知識や配色の考え方をベースに、ファッションコーディネートを色彩の視点でまとめるコツをお伝えします。

ファッションカラー基本講座を受講された方のステップアップ講座です。

?『ファッションカラー実践講座』の概要、開催日程は、。

 

いい走り。いい生き方。ファション

   第二十九章

 

 埼玉県大宮氷川神社。希典は拝殿に神職全員を集めた。当然、魔子と美翔も現れる。美しい巫女装束の魔子と美翔を見ると、若い神職は、その美しさに見とれてしまう。

 「先日、陛下に会ってまいりました。皇太子殿下、美智子妃殿下も当然、その場にいらっしゃいました。皇族方皆さま、根岸光輪の事で不安に思っているようです。諸氏、くれぐれも悪魔の誘惑に負けないで下さい。陛下をお守りするのは私達しかいないのです。ここは武蔵の国一の宮です。率先して陛下をお守りするのが私達の一番の責務であります。どうぞ、お力添え頂きたい、よろしくお願い致します。皆さん、お引止めして申し訳ありませんでした」

 希典の話が終わると、皆それぞれ帰って行った。

 「お父さん、私と美翔をマンションまで送ってってくれない」と魔子。

 「しょうがないなあ」と希典

 「お父さんいいでしょ」

 「坂田さんにも聞かないと」

 「宮司様、どうしたんです」と平八郎。

 「この二人をマンションまで送っていってもかまいませんか」

 「宮司様こそいいんですか」

 「ええ、私はかまわないのですが…」

 「宮司様がかまわないのでしたら、私は全くかまいません」と平八郎。

 「それじゃあ、ちょっと行ってきます」と言い、着替えに行く。魔子と美翔も着替えに行く。三人は着替えると、希典の乗用車に乗る。

 「お父さん、道分かる」と魔子。

 「一度行ったところだからな」と希典。

 大宮から魔子のマンションに行くには、かなり遠いため、ずいぶんと時間がかかったが、どうにかたどり着いた。車がマンションに着くと魔子は車から降り、地下の駐車場のシャッターを開ける。

 「そこよ、六番が私の駐車場」

 「お前、車なんか持ってないだろう」と希典。

 「いずれ買うわ。…そのためにお金貯めといたのよ。…まあいいじゃない自分のお金で買うんだから」

 「とにかく部屋に行きましょう」と美翔。

 三人は魔子の部屋に行く。

 「散らかってるけど、入って」

 「すぐ帰るよ。しかし、この散らかりようは…」と希典。

 「いいじゃない」と魔子。

 「私はもう大宮に帰らなければならない。次に来るときまでに片付けておきなさい」と希典。

 「はいはい」

 希典は帰って行った。

 「あーあ、明日からまた授業かあ」と美翔。

 「楽しいわよ」と魔子。

 次の日、魔子と美翔は自転車で大学に通う。ジーパンにゆったりした上着、胸元が大きく開いたシャツ。清楚でとても美しく、皆の目を引いた。学校に行くと未だに新入生の勧誘をしているサークルがある。魔子はもちろんのこと美翔も既に有名になっているので、やたら声を掛けられる。

 「藤堂さん、坂田さん、うちのサークル入りませんか」

 「いらないわ」

 「新歓コンパ無料でも駄目ですか」

 「結構よ」

 「どうしてもですか」

 「私達もう映研に入ってるの、知らないの」

 「二股かけてもかまいませんが」

 「そんなことする訳ないでしょ」

 魔子と美翔はさっさとその場を離れ、映研の部室に行く。

 「あ、魔子さんと美翔さん」

 「あら、杉山君、みんなどうしてるの。ひろし君と田村さんは」

 「新入生の勧誘に行ってます」

 「そう」

 ひろしが新入生を連れてやって来る。「魔子ちゃん、美翔ちゃん、会いたかったよ」

 「先輩、あの綺麗な女の人は…」

 「魔子ちゃんは、お前らの先輩だな」

 「でも、まだ一年でしょ」

 「ずっと休学してたんだよ。すげー美人だろ、二人とも」とひろし。

 「はい…」と新入生達。

 

   第三十章

 

 授業中、魔子の携帯が振動する。マナーモードにしといて良かったあ、危ない危ない。授業が終わると、さっそく折り返し電話をする。

 「はい、こちら日産自動車小石川店です」

 「私、藤堂という者ですが、あのう、先ほどそちらから電話があったようなのですが」

 「少々お待ち下さい」

 電話口の人物が変わる「日産自動車小石川店の浜口です。どうもどうも、私がお電話をさし上げたんです。藤堂さんですね」

 「はい」と魔子。

 「あのう、お車出来ましたんで、そのお知らせのため、お電話させて頂きました」

 「それで、いつならいいんです」

 「もう、店に来てるんで、いつでも結構です」

 「今日でもかまいませんか」

 「ええと、そうですねえ、…はい大丈夫ですよ」

 「それじゃあ、二時頃持ってきて下さい」

 「はい、分かりました」

 電話を切る。

 「どうしたの」と美翔。

 「車が出来たんだって」

 「ええ、ほんとにー」と美翔。

 「うん、だからもう帰りましょ、二時頃持ってくるって言ってたから」と魔子。

 二人はマンションに帰った。やがて、二時頃であろうか、独特の排気音が聞こえてくる。魔子と美翔は外に出る。そこには、GT-Rと、営業用の車一台が来ていた。

 「ちょっと待って下さいね」魔子は地下駐車場のシャッターを開ける。「六番です」

 浜口は慣れた手つきで、ぴたりと車を収める。

 「お待たせしました」

 「それでは、代金を支払うので部屋に来て下さい」と魔子。

 「恐縮です」

 金額が多いため、浜口はお金を数えるのに、ずいぶん時間がかかったが、それ以外はだいたい、滞りなく手続きは終わった。再び、三人はGT-Rのところに行くと、魔子は浜口から車の説明を受ける。「これで終わりです。それでは私は…」

 「ちょっと待って、このハンドルの周りのボタンの操作を教えて欲しいんですが」と魔子。

 「ああ、そうですねえ、これがカーステレオで、これが空調です。他にも分からない事があったらいつでも仰って下さい。店はすぐそこなんで」

 「分かりました」と魔子。

 「それではよろしくお願いします」と浜口はもう一台の車に乗って帰って行った。

 「かっこいい…」と美翔。

 「美翔、少し走ってみない」と魔子。

 「いいわ」

 魔子はエンジンをかけ、GT-Rを駐車場から出す。

 「美翔、シャッター閉めて」

 壁にあるボタンを押すと自動的に閉まるようになっている。美翔が助手席に乗るとGT-Rはゆっくりと走り出す。

 「この車凄いわ、なんて運転しやすいの」と魔子。

 「凄いわ、かっこいい」と美翔。

 「大宮まで行ってみようか」

 「宮司様、驚きますわ」

 「そうね、でも美翔、これが一千五百万したっていうのは内緒よ」

 「でも、あのお金どうしたんです」

 「自分の土地を少し売ったのよ」

 「土地ー」と驚く美翔。

 「そうよ、母の遺産を貰ってたのよ」

 「魔子様ったら」

 「みんなにはモデルってことにしといて」

 GT-Rは大宮バイパスに入った。道がすいているため、ついスピードが出てしまう。そのため、以外と早く氷川神社に着いた。魔子は車を自動車祈祷祓所に止めた。

 「お父さんただいまあ」と魔子。

 返事がない。

 「社務所にいるのかしら」

 魔子と美翔は楼門で一礼して中に入って行った。社務所には巫女の山口智子と泉毬絵がいた。「魔子様、美翔様、宮司様なら祈祷されています」

 「そう、じゃあうちで待ってるわ」

 茅の輪くぐりの準備をしている平八郎。

 「魔子様、美翔じゃないか」

 「忙しそうね」と魔子。

 「大したことないですよ」と平八郎。

 「今日はちょっとドライブに来たのよ、車買ったから」

 「魔子、魔子…」と呼びながら希典がやって来る。

 「ここよ」

 「どうしたんだ」

 「どうって、ドライブよ。車買ったの。…そうだ、お父さんお祓いしてよ」

 「自分でやりなさい、もう自分で出来るだろう」

 「やったことないわ」

 「祝詞は覚えただろう」

 「だいたいは」

 「じゃあ、さっさとそのいやらしい服を着替えてきなさい」

 「いやらしいってことはないじゃない、セクシーと言ってよ、セクシーと」

 「美翔も着替えてきなさい」と平八郎。

 「分かったわ」と美翔。

 「美翔、行きましょ」と魔子と美翔は藤堂家に向かった。

 「もう、いちいちめんどくさいんだから。せっかくのドライブが台無しだわ」と魔子。

 魔子と美翔は着替えると、自動車祈祷祓い所にあるGT-Rのところにやってくる。希典と平八郎も見にやって来る。

 「魔子様、じゃあ始めましょうか」と美翔。

 「かけまくもかしこきいざなぎのおおかみ、つくしのひむかのたちばなのおどのあはぎはらにみそぎはらえたまひしときに、なりませるはらへどのおおかみたち…この後なんだっけ」と魔子。

 「ははは」見ていた希典と平八郎が笑う。

 「お父さん、笑い事じゃないわ。根岸光輪は夏休みになったら、絶対何かやらかすわ。それが何かはもう分かってるじゃない。陛下がどうなってもいいの」

 「分かってるから心配するな。私の命に代えても陛下をお守りするのが私の使命だ」と希典。

 「私だって、魔子様と一緒に陛下をお守りしなければ、坂田の家の恥だわ」と美翔。

 「まあ、せっかくドライブに来たんだから、また、その続きをしましょう」と魔子。

 「また着替えるの」と美翔。

 「そうよ」

 魔子と美翔は着替えると、それぞれ父親に話し、再びGT-Rに乗りドライブに出かけた。

 高速に入ると、運転し通しで、さすがに魔子も疲れ、美翔に言う「何か食べて少し休もうかしら。次のサービスエリアでゆっくりしましょう」

 「いいわ」と美翔。

 「美翔、愛してるわ」

 「私も…魔子様の事…愛してるわ」

 サービスエリアに入るGT-R。

 「魔子様、今日は車の中で寝ましょうよ」

 「美翔がいいなら、私はかまわないわ」

 「魔子様、何か食べたいものある」

 「そうねえ、かき揚げそば」

 「私は天ぷらそば」

 魔子は駐車場に、慣れた手つきで白線内にピタリと止める。そしてエンジンを止め、美翔と外にでる。二人はあっという間に注目の的になる。その露出の多い服と、美しい脚、良く引き締まった腹筋。

 「すげー、あんないい女が運転してきたのか」

 「かっこいい」

 誰彼ともなく集まって来る。魔子と美翔はかまわず建物に入って行く。二人は食券を買い、かき揚げそばと、天ぷらそばを注文した。しばらくするとそばが出来上がり、それを持ってテーブルに行き、食べ始める。

 「美翔、美味しい」

 「うん、魔子様は」

 「美味しいわ」

 二人は食べ終わると、少しお土産を見て車に戻った。GT-Rの周りには人が数人いた。二人はかまわず車に乗る。「魔子様、これじゃあ寝られないわ」

 「それじゃあ次のサービスエリアに行ってみましょ」

 黒いGT-Rが日暮れの中走って行く。アクセルを踏んだ時の加速感がなんとも気持ちいい。追い越し車線でどんどん他の車を抜いてゆく。魔子と美翔はその快感に酔いしれるのだ。あっという間に次のサービスエリアに着いた。

 「魔子様、あの辺はどう」

 「そうね、そうしましょう」と魔子は手際よく車を止める。

 「魔子様、私、何か買ってくるわ」と美翔は車を降り、焼き鳥と珈琲を買って戻って来る。

 「ありがとう美翔」と言って魔子は食べ始める。「私、皮が好きなのよ」

 美翔も食べる。「美味しい」

 二人無言で食べる。

 「つくねは」と美翔。

 「美翔にあげる」と魔子。

 時間が経つにつれ、車の数が減って行く。

 「ああ、最高、いい車だわ」と魔子。

 「私、車の中で寝るのなんて初めてだわ」と美翔。

 魔子は疲れたせいか、うとうとし始める。そして、座席を倒し横になる。「そんなに寒くないから、エンジンは止めといていいわね。それじゃあおやすみ」

 ところが、美翔は興奮して眠れず、一晩中起きているのだった。

 朝になり、魔子が目を覚ます。「ああ、良く寝た」

 「魔子様おはよう」

 「美翔、もう起きてたの」

 「ううん、ずっと眠れなかったの」

 「しょうがないわねえ」

 二人は車から降り、珈琲を買いに行く。「ああ、気持ちいい」

 「この珈琲を飲んだら出発しましょう」と魔子。

 珈琲を飲み終わると、二人は車に戻り、魔子はエンジンをかける。その排気音で皆が注目する。GT-Rは再び走り出し、あっという間に百キロを超えてしまう。

 

   第三十一章

 

 東都大学では七月の始めに前期の試験が行われた。魔子と美翔はなんなく終わらせ、長い夏休みが始まる。食堂のいつもの溜まり場では魔子と美翔は一際目立っていた。

 「魔子ちゃん、美翔ちゃん夏休みはどうするの」と田村。

 「仕事よ、私も美翔も、残念だけど映画は撮れないわ、ごめんね。でも、電話はたまにするから。ひろし君によろしく言っといて」と魔子。

 「もう行くの」と田村。

 「ええ、それじゃあまたね」と魔子。

 魔子と美翔は自転車でマンションに帰る。

 「魔子様、部屋片づけないと」

 「やっぱり」

 「まずはいらないものを捨てないと」

 「でも、本は大事だわ」

 「本棚があれば良かったのに」難しい本がたくさん散らばっている。

 「今度、買うわ」

 「それと洗濯」

 「一回じゃ終わらなそうね」

 「仕方ないわ」

 「一週間は必要ね。ゴミ捨てなきゃいけないから」

 「今日、何曜日だっけ」

 「火曜日だわ」

 「明日は、じゃあ燃えるゴミね」

 「あさってが燃えないゴミだから、それで終わりね」

 「駄目よ、そこにたくさんある酒瓶はどうするの」

 「ああ、そっか。でも今日は終わりでしょ」
 「うん」

 

   第三十二章

 

 埼玉県大宮氷川神社。宮司の藤堂希典は再び拝殿に神職を全員集めた。その中には当然、魔子と美翔もいる。

 「皆さんご着席を。以前の京都で起こった殺人事件の事なのですが、未だにまったく進展がありません…」と希典が話し出すと、なぜか魔子がそれを遮り、続けて話し出す「…進展がないのは当然です。根岸光輪が悪魔を召喚するために行ったのですから。悪魔は狡猾で人の弱みに付け込みます。そして、その者と契約を交わします。契約が果たせないと、その者は自らの魂を捧げなければなりません。それか、自分の魂の代わりに生贄を捧げなければなりません。どっちにしろ悪魔は魂を買うのです、それが契約ですから。実は、この場へ諸氏を呼んだのは、他でもありません、悪魔と契約を交わして欲しくないからです。人は弱い生き物です。ですから神々がいらっしゃるのです。神々はもちろんのこと、陛下も私たちの希望であることをお忘れにならないで下さい…」魔子が倒れる。

 「すぐに救急車を」と誰かが言う。

 「大丈夫です。少々疲れたのでしょう」と希典。

 「今の話はどうやら言霊だったみたいですね」と平八郎。

 若い神職は驚いて平八郎に尋ねる「言霊とは…」

 「大学で習わなかったのですか」

 「いやあ、習ったと思うんですが…」

 「今、見た通りですよ」と平八郎。

 他の巫女によって自分の部屋に運ばれた魔子は急に目が覚め辺りを見回すと、そこが自分の部屋であるのが分かる。美翔が手を握っている。

 「私、なんで巫女装束のまま寝てたのかしら」

 「魔子様…」と美翔は希典と平八郎を呼びに行く。

 「私、何でこんな姿のままで寝てたの」

 「ああ、やっぱり覚えてないか」と希典。

 「拝殿にいたのは覚えていますか」と平八郎。

 「なんとなく」と魔子。

 「お前の中に御霊が入って、言霊を仰ってたんだ」と希典。

 「ふーん、なんか変な事言ってた」

 「別に…」

 「まあいいわ」

 「ところで魔子様、祝詞は言えますか」と平八郎。

 「こないだのままよ」

 「坂田さん、どういうことですか」と希典。

 「ええ、これは本当かどうか分からないのですが、巫女が祝詞を唱えると、我々神職以上の霊力を持つことが出来ると…。そもそも巫女は神職の助手では無い訳ですから」

 「それは知ってます」と希典。

 「ましてや言霊まで操れるとなると…」

 「ただの巫女ではいられないということかしら」と魔子。「坂田のおじさま、私祝詞覚えるわ」

 「いやあ、祓言葉だけでも十分ですよ。余力があれば大祓いを」

 「でも、魔子には無理…」と希典。

 「どうしてよ」と魔子。

 「あんまり私に気苦労を掛けさせないでくれ、根岸光輪は半端じゃない」と希典。「下手したら死ぬぞ」

 「望むところよ」と魔子。

 「私もお供します」と美翔。

 「死ぬ気で魔子様をお守りするのだぞ」と平八郎。

 「坂田さん…」と希典。

 

   第三十三章

 

 魔子と美翔は以前とは人が変わったように祝詞の暗唱に力を入れた。祓言葉はもちろん、大祓いもほぼ完全に覚えた。今では陰陽道の勉強をしつつある。

 「魔子、美翔さん」と希典が呼ぶ。

 「なあにお父さん」と魔子。

 「飯だよ、飯」

 魔子も美翔も途中で辞めるのは嫌だったが、仕方なく茶の間に行く。「あ、坂田のおじさま、こんばんわ」と魔子。

 「魔子、飯も食わずに続けるつもりだったのか」と希典。

 「魔子様、美翔、頑張っているようですね。でもご飯はちゃんと食べて、夜はちゃんと寝なければいけませんよ」

 「はい」と魔子と美翔。

 「坂田さんが炊き込みご飯を持ってきてくれたんだ」

 「え、本当、おばさまが作ったの」

 ご飯をよそる魔子と美翔。

 「頂きます」

 三人食べ終わり、平八郎が魔子と美翔に聞く「勉強はどの程度進みました」

 「祓言葉はもちろん、大祓いも全部暗唱できるし、書けるようにもなったわ」と魔子。

 「え、もうそこまで」と希典。

 「まあ、勉強もいいけど飯ぐらいちゃんと食え」と希典。

 「坂田のおじさま、私頑張って根岸光輪に負けないくらいになるわ」と魔子。

 「バカな事言うのは辞めなさい」と希典。

 「魔子様、宮司様が言っている通りです。根岸光輪の事は私達がなんとかします。魔子様と美翔はこの氷川神社をお守り下さい。私達は死ぬかもしれませんから」

 「坂田さん…」と希典。

 「おじさま…」

 

   第三十四章

 

 魔子と美翔の修行がひと段落した。もうすぐ九月になり大学も始まる。二人が巫女装束で藤堂家の茶の間でお茶を飲んでいると、希典が帰って来た。

 「お帰りなさい」と魔子。

 「なんだ今日は修行せんのか」

 「ひと段落したわ」と魔子。

 「ほう…」と希典。

 「私達、祝詞全部暗唱できるし全部書けるわ」

 「何だと」

 「それだけではないわ、古事記も日本書紀も全部覚えたわ。それに、舞も出来るし、口寄せはもちろん、陰陽道、風水まで使えるようになったの、お父さんたちに負けないくらいの結界もはれるようになったわ」

 「信じられん…こんな短期間に…」と希典。

 「ごめんください、坂田です」

 「どうぞ」と希典。

 平八郎が入って来る。

 「坂田さん、魔子たちの修行がひと段落したらしいのですが」

 「何ですって、こんな短期間で…」と平八郎。

 「まあ、ちょっと言いすぎかもしれませんが、ひと段落したのは確かよ」と魔子。

 「確かにまだやる事があるかもしれませんが、それは生涯続けるものです」と美翔。

 「美翔、ほんとに美翔なのか」と平八郎。

 「そうですよ、陰陽道も風水も使えます。それだけではないわ、何だか不思議な力が使えるようになったわ」

 「美翔の霊力が目覚めたみたいですね」と平八郎。「魔子様ありがとうございます」

 希典も平八郎も、魔子と美翔の姿をよく見る。二人ともより美しくなり巫女装束が良く似合っているのが分かる。

 「魔子、お前コンタクトしてるのか」

 「いいえ」

 「なんとなく目が青みがかって見えるのだが」と希典。

 「言われてみれば美翔の目もなんだか緑がかっているような」と平八郎。

 「そうかしら」と魔子。

 魔子と美翔は鏡を見に行く。

 「ほんとだ」二人は部屋に戻って来る。「疲れたから、今日はもう寝ます」と魔子。

 「あ、ああ…」と希典。

 魔子と美翔はそろって魔子の部屋に行く。そしてお互い巫女装束を脱ぎ全裸になる。さらに美しくなったその体で、一つの布団に入り抱き合い、愛し合うのであった。

 

   第三十五章

 

 魔子と美翔はマンションに戻った。ある日の朝、魔子は新聞を見ている。「もう九月になってるのに根岸は動かないわ。何企んでいるのかしら」

 「もう、諦めたんじゃないかしら」と美翔。

 「それは、ありえないわ」

 美翔が珈琲をいれる。

 「ありがとう」

 「魔子様、今日はどうします」

 「天気がいいからドライブでも行く」

 「ええ、行きたいわ」

 「どこ行きたい」

 「海が見たいわ」

 「じゃあ、伊豆の方でも行ってみようか」

 「ええ」

 「お弁当はいらないわ、出先で美味しいものでも食べましょう」

 「はい」

 「それじゃあ、服選びましょう」

 魔子はタンクトップにジーパン、美翔はタンクトップに大きくスリットの入ったスカートをそれぞれ選んだ。

 「魔子様綺麗」

 「美翔も素敵よ。それでアクセサリーだけど好きなの付けていいわよ」

 「魔子様選んで」

 「そうねえ、この金のネックレスなんかどう」

 「素敵だわ」

 「ところで美翔、ブラしてるの」

 「ええ」

 「そんなもん、いらないわよ」

 「ええ、何で…」

 「私はいつもノーブラよ」

 「恥ずかしいわ、かがんだ時に見えちゃう…」

 「いいじゃない別に」

 「でも…」

 「あなたの形のいい胸が台無しよ」

 「分かったわ」

 「じゃあ、行きましょ」

 二人は車に乗り、マンションを後にする。道がすいているせいか、あっという間に東名高速に乗る。「覆面パトカーに気をつけないと」と魔子。

 「気持ちいい、爽快だわ」と美翔。

 すぐに海老名サービスエリアに着いた。

 「魔子様、あの正面の場所空いてるわ」

 魔子は正面の空いている場所に車を置く。結構目立つ場所だ。周りにいる人々が皆、GT-Rに注目する。魔子はエンジンを止め、美翔とふたりドアを開け、外に出る。周りにどよめきが起こる。車はもちろんのこと、出てきたのが物凄い美女だからだ。みんな、スマホや携帯で写真を撮る。どうやらGT-Rより二人の美女に興味があるようだ。「あ、あのすいません、GT-Rと一緒のところを写真に撮らせてもらえませんか、お二人とも凄く綺麗ですから」

 「いいわよ」と魔子と美翔はさりげなくポーズをとる。

 「ありがとうございました」

 魔子と美翔は食事をすると、さっさと走り出した。東名高速を降り、伊豆の海岸線を走る黒いGT-R。窓を開けると潮風が入り、二人の美女の髪を巻き上げる。空には雲一つなく、最高の秋晴れの中、ドライブを満喫するのであった。

 マンションに戻ったのは夕方で空は茜色に染まっていた。部屋に入り、魔子は何気なくテレビのスイッチを入れる。食事は済ませてきていたので、二人はぼうっとテレビを見ていた。NHKのクローズアップ現代が始まった。今週のテーマは宗教の事であるらしい。コメンテーターが紹介される。

 「な…何で…」うろたえる魔子。

 「魔子様どうしたの」と美翔。

 魔子は大急ぎで希典に電話をする。「お父さん、大変だわ」

 「おお魔子か、今、坂田さんの家にいるんだが…」

 「だから、大変なのよ」

 「何が」

 「テレビに根岸光輪が出てるわ」

 「な、何だと」と希典。

 「NHKよ」

 「坂田さん」

 「はい」と大急ぎでテレビをつける。

 「なんでテレビなんかに…」と希典。

 「これは大変なことになりましたね」と平八郎。

 「内容はともかく、テレビは影響力がありすぎますからね」と希典。

 「ましてや宗教の事となると…」と平八郎。

 「そうです、根岸のファンになる若者が出て来るでしょう」

 「参りましたね、テレビを使うとは…」と平八郎。

 「魔子、大変なことになったぞ、気をつけろ」と希典。

 「ええ」

 「お前と美翔さんはもうこの件から手を引きなさい、後は私達で何とかするから」

 「宮司様、少し電話をお借りしてもいいですか」

 「ええ、どうぞ」

 「もしもし、坂田ですけど」

 「あ、おじさま、お久しぶりです」

 「美翔に変わってもらえますか」

 「はい」と美翔に電話を渡す。

 「お父さん、美翔よ」

 「美翔、あの男が根岸光輪だよ、危険な男だ、死んでも魔子様をお守りするのだぞ」

 「分かってます」

 「あ、ありがとうございます」と平八郎は希典に電話を返す。

 「とにかく、あまり目立つことはするな。出来ることなら大学を辞めて欲しいのだが」

 「それは出来ないわ。また休学でもするわ…とにかく気を付けるから安心して」と魔子は電話を切る。「大変なことになったわ」

 

   第三十六章

 

 京立大学では、根岸光輪はちょつとした有名人になっていた。学生たちの中には根岸光輪を尊敬する者まで出始めている。しかし、他の教職員は根岸のテレビ出演を非難する者が多い。

 学部長の夏川は言う「根岸さん、無断でテレビに出演するのはやめて下さい。あなた、まだ助教授じゃあないですか。少しは自分の立場をわきまえて下さい」

 根岸は自分の研究室に戻る。「くそう夏川め、自分がテレビに出れないからひがんでやがる。…ふふ、覚えてろよ」

 次の日、学部長の夏川は交通事故で死んだ。

 「ハハハ、ざまあみろ、ハハハ」

 だが、しばらくはテレビには出れないなあ、おそらく学科主任の田代も夏川と同じことを考えている筈だからと思いながら珈琲を飲む。

 

   第三十七章

 

 埼玉県大宮氷川神社。希典はまた拝殿に皆の者を集めた。「昨日、京立大学の先生がまた死にました。皆の者はどう思っているのかお聞きしたいのですが」

 「宮司様、私は新聞に書いてある通り、ただの交通事故だと思うのですが」と若い神職の水野が言う。

 「私も偶然だと思います」と神職の立野。

 「私は、私は、何か不吉な事ではないかと…」と巫女の毬絵がおどおどと答える。美翔か側に行く「いいんですよ怖がらなくて」

 「他には…」と希典。皆顔を見合わすが、誰も話そうとしない。「…皆さん、どうもありがとうございました。ご意見、大変参考になりました。今後ともよろしくお願いします」

 皆、帰って行った。魔子と美翔が毬絵を呼ぶ。

 「どうしてさっき震えてたの」と美翔。

 「怖くて」と毬絵。

 「何が」と美翔。

 「みんなが、だって…」

 「みんな自分より年上だからでしょ」と魔子。

 「はい…だけど…言わない訳にはいかないし」

 「立派でしたよ」と希典。

 「それだけではないようですね」と平八郎。

 「それは…」と毬絵。

 「もう分かっています。水野と立野でしょ」と魔子。

 「しかし、二人も破門にする訳には…困ったなあ」と希典。

 「水野と立野は、前々から態度が悪いと、氏子の方々に言われてたんですよ」と平八郎。

 「あの二人怖いわ…私辞めようかと思っていたところなんです」と毬絵。

 「毬絵ちゃん、給料増やすから辞めないで。あの二人のことなら私達で何とかするわ。ねえ、美翔」と魔子。

 「もちろんです」と美翔。

 「魔子、また妖しげな事考えているんじゃないだろうな」と希典。

 「ちょっと妖しいかしら」と魔子が不可思議な微笑みをする。

 魔子と美翔は、私服に着替え、マンションに帰るためにGT-Rに乗った。魔子はエンジンをかけアクセルを踏む。毬絵は思う、魔子様と美翔様、なんてかっこいいのかしら。私もあんな風になりたいな。

 帰りの車の中、美翔が聞く「水野と立野のことどうするつもりなんです」

 「ふふーん、美翔、あなた自分がどれだけ綺麗だか分かってないの」と魔子。「素敵なんだから、もっと堂々としなさい。そうしないとせっかくの美しさが台無しよ」

 「はい」

 「もう、この世に私達より美しい人間なんていないのよ」

 「わかったわ」

 魔子は片手で、そっと美翔の太腿をなでる。「まっ、魔子様…」と美翔。

 「嫌かしら」

 「そっ、そんなことないわ。でも、こんなところで…」美翔は生足なので良く感じる。「気持ちいい…」

 GT-Rは大宮バイパスに入りひたすら走る。信号で止まると、魔子は考え事を始める。何か嫌な予感がするのだ。「美翔、何か感じない」と魔子が聞く。

 「いいえ、別に」

 外は日が暮れて夜になりつつある。

 「やっぱり、大宮に戻りましょう」と魔子が急に言い出す。

 「どうしたの」

 「ちょっと気になるの」

 

   第三十八章

 

 神職の水野と立野は仕事が終わると、私服に着替え、大宮の繁華街にあるファションヘルスに行く。「俺、あんまり金ないんだよなあ」と水野。「俺もだよ。今日でしばらく来れないなあ」と立野。二人は店に入って行く。

 「いらっしゃいませ」と店員。

 「魔美ちゃんいる」と水野。「ひろみちゃんは」と立野。

 「もちろんいますよ。お二人ともどうぞこちらへ」と店員。

 魔美とひろみが現れ、それぞれ別々の部屋に行く。

 水野の部屋の魔美。「いらっしゃーい。水野さんちょっと待ってて、すぐ着替えるから」と言って、魔美は巫女装束に着替える。「これでいいかしら」

 「うん、十分だよ」

 「じゃあ始めようかしら」

 「ああ」水野は思う、なんて不細工な女だ。

 一方、立野の方はひろみにセーラー服を着せてもう楽しんでいる。

 魔美が水野に聞く「そろそろ時間だけど延長する」

 「いや、今日はいいよ」

 「三回もイクなんてよほど溜まってたのね」と魔美。

 水野は服を着ると店から出て来る。立野はもう店から出てタバコを吸っている。「どうだった」と立野が聞く。「いつも通りだよ」二人それぞれ帰って行く。

 水野が一人夜の裏通りを歩いていると、その途中、不思議な客寄せに会う。

 「すいません、氷川神社の水野さん」

 「誰だあんた、なんで私の名前を知ってる」

 「藤堂魔子なみの美女を抱いてみたいと思いませんか」

 「誰だか知らないけど、私にはもうそんな金ないよ」

 「お金なら要りません」

 「ただでそんな美女を抱けるわけないだろう」

 「まあまあ、見るだけでもどうぞ」

 水野は、怪しげな客引きに連れられ、さらに人気のない狭い道に入って行く。「こちらです」看板も何も出てない異様な雰囲気の建物で、ドアが一つあるだけだ。その怪しげな客引きはドアを開け「どうぞ」と水野を中に招き入れる。

 「なんだ、ただのキャバクラじゃないか。確かに女の子の質は高いけど、今更、酒は飲まないよ。第一、金がないって言ってるじゃないか」

 「どうです、お金なら要りませんよ、それで藤堂魔子なみの美女を抱けるんですよ」

 水野は中に入ろうとする。

 「あら、私と同じぐらいの美女がいるの」と魔子。

 「そんな美女、私も見てみたいわ」と美翔。

 「ま…魔子様…、美翔様…」と水野。

 「な、なんで藤堂魔子がここに」と怪しい客引き。

 「あんた何者」と魔子。

 「お、俺は光輪様に言われただけで…」と客引き。

 「ふーん」と美翔。

 「…ちきしょう」とその客引きは、店もろとも消滅した。唖然とする水野。

 「水野さん、あまりいかがわしいところに足を運ぶのは危険ですよ」と魔子。

 「は、はい、申し訳ありません」と水野。

 「こういうのが悪魔の手口なのよ」と魔子。

 「はい、これからは気をつけます」と水野。

 「気を付けて帰るのですよ」と魔子が水野の手を優しく握る。

 「はい、ありがとうございます」と水野。

 「立野さんにも言っといてね」と美翔。

 次の日、魔子と美翔は、毬絵にそのことを話す。水野と立野が悪魔に誘惑されていたことと、その悪魔を祓ったことを。毬絵は涙を浮かべて喜ぶ。「魔子様、美翔様、ありがとうございます」

 

   第三十九章

 

 東都大学では十二月の前半から後期の試験が始まる。藤堂魔子と坂田美翔は相変わらずの調子で難なくパスするであろう。柴田ひろしは悩んでいた。「俺、魔子ちゃんと美翔ちゃんのいない世界でなんか生きていけないよ」魔子は思う、やばい、ちょっとやり過ぎたかしら、完全に恋の病だわ。魔子は言う「私も美翔も大宮の氷川神社にいるわ、だからあんまり落ち込まないで」

 今度三年になる杉山が言う「魔子さんも美翔さんも今度二年になる訳だから、OBとしていくらでも会えるじゃないですか」

 「ひろし君、あんまり気にしない方がいいわよ」と魔子。

 「俺、日産自動車に就職が決まったんだよ。どこに飛ばされるか分からないよ」とひろし。

 田村学が現れる。「ひろし、どうしたんだ」

 「なんだ学、何でそんなに元気なんだよ」とひろし。

 「俺、大宮の会社に就職することに決めたんだ」と田村。

 「なんだとー」

 「まあ、中小企業だけど、いつも魔子ちゃんと美翔ちゃんのそばにいれるよ」

 魔子は思う、あちゃーこっちもだわ、完全にやりすぎちゃった。「田村さん、そんな馬鹿な事するもんじゃないわ。一流企業とか役所に勤めた方が絶対いいわ」

 「魔子ちゃんと美翔ちゃんのいない世界なんて、もう考えられないよ」と田村。

 確かに魔子と美翔は以前より妖艶に美しさを増している。

 「田村さん、馬鹿な真似はしないで、OB会で会えるじゃない。だからもっといい会社に入るべきだわ」

 「学、俺もそう思うぞ、親が泣くぞ」とひろし。

 この二人、完全に恋の病だわ、どうしよう。

 「私が悪いのね、そんなことするなら、私映研を辞めるわ」と魔子。

 「そんなあ」と杉山。

 「分かったよ魔子ちゃん。俺、普通に会社に入るよ…」と田村。

 「それが一番いいと思うわ」と魔子。

 「俺たちの事忘れないでね」とひろし。

 「忘れる訳ないじゃない」と魔子。

 一人の学生が映研の溜まり場に来る。「俺、模型部の白谷という者ですが、今度卒業するんで、藤堂さんと坂田さんに贈り物を持ってきました」

 「なあに」と魔子。

 「これとこれです」

 「あら、可愛いフィギュア」

 「藤堂さんと坂田さんのフィギュアです」と白谷。

 「ほんとに―」と美翔。

 フィギュアは凄い美人で、魔子と美翔にそっくりである。特にプロポーションのディテールなど、本当によくできている。

 「私達、こんなに綺麗かしら」と魔子。

 「いやあ、いつも遠くからしか見たことないんで…近くで見るとさらに美しい」

 「どうもありがとう」と魔子。

 「卒業しても元気でね」と美翔。

 

   第四十章

 

 試験も終わり、魔子と美翔は大宮に戻った。藤堂家の茶の間では、相変わらず坂田夫妻と魔子と美翔、そして希典が酒を酌み交わす。

 「私と美翔で伊勢に行こうと思ってるの」と魔子。「その方が手っ取り早いわ。陛下や皇族方と謁見した時の事なんか、良く話してくるわ」

 「いや、しかし、年末だし、向こうも忙しいんじゃないか」

 「ええ、でも、ここに居てもしょうがないわ、私達の代わりの巫女ならアルバイトで十分じゃない」と美翔。

 「そこまで言うなら外宮の宮尾様に連絡しよう」と希典。

 「いいんですか、この年末に」と平八郎。

 「取り敢えず、電話してみます」と希典は携帯電話を取り、伊勢外宮祠官の宮尾忠彦に電話をした。「もしもし、私、武蔵の国一の宮氷川神社の宮司、藤堂希典という者ですが、伊勢外宮祠官の宮尾忠彦様は御在宅でしょうか」

 「少々お待ちください」

 「もしもし、宮尾ですが」

 「武蔵の国一の宮氷川神社の藤堂希典です」

 「藤堂さんかい、久しぶりじゃのう」

 「覚えていてくれたんですか」と希典。

 「覚えとるよ」

 「ありがとうございます。要件は、あの根岸光輪の事なんですが…」

 「ああ、分かってますよ」

 「それで巫女を二人お邪魔させたいのですが。お忙しいところ申し訳ないのですが」

 「ええ、かまわんよ。いつでも結構ですよ」

 「ありがとうございます」

 「待っとるから、いつでもどうぞ」と宮尾。

 「分かりました。失礼します」と希典は電話を切る。「そういうことだ。くれぐれも無礼が無いようにするんだぞ」

 「分かってるわよ」と魔子。

 

   第四十一章

 

 その三日後、魔子と美翔はGT-Rに荷物を積めるだけ積んで、伊勢に向かった。

 「伊勢までって、どれくらいかかるのかしら」と魔子。

 「分からないわ」と美翔。

 「取り敢えず、海老名まで一気に行きましょう」

 「ああ、寒い」

 「エンジンが温まるまで待ってて」

 GT-Rは高速に乗ると、すぐに海老名に着いた。

 「何か食べてすぐに出ましょう」と魔子。

 「はい」と美翔。

 GT-Rは滑るように走り東名高速から名神高速に入った。運転し通しで魔子は少し疲れてきた。

 「次のサービスエリアで休みましょう」と魔子。

 「魔子様、大丈夫」と美翔。

 「ちょっと疲れたわ」

 GT-Rはサービスエリアに入って行った。

 

   第四十二章

 

 次の日の午前中には魔子と美翔は伊勢神宮に着いた。魔子はあらかじめ電話をしておいた、宮尾忠彦の娘、春奈に電話をした。

 「もしもし、藤堂ですけど、春奈さんは…」

 「私です」と春奈。

 「今、着きました」

 「どこにいます」

 「外宮の一の鳥居のところだと思うんですが…」

 「今から行きます」

 「あの、黒いスポーツカーなんで、すぐ分かると思います」

 「分かりました」と電話が切れる。

 「よかったあ」と二人。

 軽自動車が近づいてくる。「もしかして」と魔子と美翔は車から降りる。軽自動車は二人の側まで来て止まる。「藤堂さん」

 「はい、氷川神社の藤堂です」

 「凄い車ですね。そうしたら私の車の後をついてきて下さい」と春奈。

 宮尾忠彦の自宅は広い敷地にある平屋の建物で、年数は経っているようだが、しっかりしていて非常に立派である。魔子と美翔は玄関に通される。

 「ご飯は食べましたか」と春奈。

 「はい」と魔子。「それで、あのう、私達も巫女装束に着替えたいのですが」

 「別に服なんか気にしなくてもいいんですよ」と春奈。

 「そういう訳には…」と美翔。

 「それじゃあ、この部屋を使って」と春奈に空いている客間らしき部屋に案内される。

 二人とも素早く着替えると、伊勢外宮祠官、宮尾忠彦の前に通される。

 「武蔵の国一の宮氷川神社の宮司藤堂希典が娘魔子と申します」

 「同じく禰宜坂田平八郎が娘美翔と申します」

 「さすがじゃな、陰陽道もこなすだけあるわい」

 「大したことではありません」と魔子。

 「それで陛下はなんと」

 「国民のためならと」

 「そうか」

 「本庁は」

 「個々の神社で対応してくれと」

 「まるで分かっておらん」

 「はい」

 「京都の件は神職なら誰でも知っとるよ」

 「お主達苦労したのう」

 「でも、根岸光輪は、未だに平気な顔して京立大学で講師をしております」

 「わしらが本庁に任せとったのが一番の間違いだったようじゃな」

 「本庁に勤めているのは普通の人です。根岸は催眠術も扱えますから」

 「なるほど」

 「未だに大事に至らないのは天台宗大阿闍梨のお蔭のようです」

 「大阿闍梨か…そうか」

 「お主達、ゆっくりしていきなさい。…それにしてもお主達別嬪じゃのう。東京の巫女は違うのう」

 「うちは埼玉県ですわ」

 「同じじゃ、同じ、ははは」

 

   9月30日   まだまだ続きます。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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